珈琲三杯|思索のための思索

限界フリーターが毎日の思索を書き綴る。手帖の代わり、或いはゴミ箱。

自己啓発本の性質についての覚書|当たり前のことを事新しげに

みんなだいすき自己啓発本

自己啓発本なんてのは、購入した時点で既に役目の8割は果たしていると思う。自分に足りないものや伸ばしたい要素を自覚出来ていること。それらの対処に身銭を切れるほどの覚悟が仕上がっていること。そしてこういうのは大体、本を買ったその瞬間がモチベーションのピークであるということ。

他人に選ばれる自分を目指すか、自分に選ばれる自分を目指すか

 ところで、自己啓発本に書いてある内容を、「読んでいない人間には知りようのない実行しようのない特別なエッセンス」と考えるのか、「これまでの自分が持ち得なかった、しかしごく一般的な真理」と考えるかで随分変わってくる。我々はヴェルスタースオリジナルを与えられた子供なのか、それとも生まれて初めて砂糖の味を知った子供なのか。これは個々人の解釈の問題である。前者は横文字タイトルの全米ベストセラー翻訳書とか、そういう類の本を読んでいる時に味わえる感覚だと思う。タイムマネジメントロジカルシンキング、ファクトフルネス、エッセンシャル……そういうの好きな人はすごく好きでしょう?私にも覚えがある。自己啓発というよりもビジネスジャンルに近い。このように自分の外から何かを引っ張ってこようとする本に対して、後者は自分の中から何かを引っ張り出そうとする本だ。~するとうまくいく、~をしよう、~をやめなさい、なんかそういうやつ。

くやしい……でも感心しちゃう

世の中にはアホみたいな数の自己啓発本が存在する。世の中のアホの数と同じくらい存在する。しかし全く目新しいことが書いてある本なんてそうそうあるもんじゃない。自己啓発ハイの状態から一度クールダウンして、肩を揉み、目薬をさし、牛乳でも飲みながら落ち着いて読んでみよう。大体、当たり前のことしか書いてない。

自己啓発本の個性は著者の持つ文章力や表現力、構成力にある。当たり前のことをセンセーショナルに装飾する力。時にリアリスティック、時にオーバー、時にショッキング。読者をあらゆる感情で揺さぶりつくして、実践する気力を起こさせる。言葉にするとなんだか当たり前のようだが、面白い自己啓発本は文章や表現や構成が上手い。例え風変わりなことは何一つ言ってなくても、読者をグイグイ引き寄せる。大袈裟なところは大袈裟に、穏やかなところはどこまでも穏やかに。その緩急で、飽きさせない。

例えるなら、「みんなと同じ機種のスマホに個性的でセンスに溢れたスマホカバーをつけた状態」。中身はみんな似たり寄ったりで機種数も限られているスマホだが、カバーは無数とも言えるほど種類があって、それをつけるだけで「自分だけのスマホ」を持っている気分になる。中身のスマホはみんなと一緒。それでもすごいスマホカバーをつけていれば、「すごい!オシャレ!センスある!」って人が集まってくる。特注ならなお一層。自己啓発本も同様、内容なんて大概似たり寄ったりでパターンも限られているが、それをいかに装飾するかによって、Amazonのレビューに「ありきたりな内容」と書かれて☆1を投げられるか、「他の本にはない独自の視点で面白かった」書かれて☆5を投げられるか、明暗が分かれるのである。

当たり前のことを書いて人をほほーと言わせるのは非常に難しい。文学作品以上に文学している必要がある。それが出来るのは間違いなく才能であって、我々はその才能にお金を払っている。ねえねえ面白いお話くださいな。チャリン。

ところでめっちゃ面白くない自己啓発記事ってありますよね

とはいえ本のラストはある程度無難な方がいいかなあと思っている。誰もが感心する本論と、誰もが安心出来る結論。「まあお前には無理だろうけどね」で〆られた自己啓発本は少なくとも私は見たことがない。スリリングな道中を楽しめるのは、安心出来るゴールがあってこそ。遊園地のアトラクションのように。

商売としてのジェットコースターで肝心なのは「無事にゴールにたどり着くこと」ではなく「道中がスリリングでエキサイティングなこと」である。道中で三回転したりひっくり返ったり急加速したりする恐怖を楽しむものである。「無事にゴールにたどり着くこと」は肝心とか肝心じゃないとか以前の話で、残念ながらそこはアピールポイントにはならない。しかしながらジェットコースターに乗り込む人々は、この乗り物が無事にゴールにたどり着くことは分かっている。そういう前提で乗っているのだから。ちゃんとゴールが設定されていると知っているから、安心して道中を楽しむことが出来る。仮にジェットコースター担当のスタッフから「終着点ですか?ええ、まあ、うーん、一応あるっちゃあるんですけど……」なんて言われたら恐ろしくて乗れたもんじゃない。安心できる終着点というのは、どんな物事においても大切だ。それさえ保証してくれたのなら、道中で三回転したりひっくり返ったり急加速したって良かろう。かと言って安心安全なゴールへ続く見通しの良い一本道を法定速度で走るコースターなんてちっとも面白くない。よくあるライフハックブログの自己啓発記事は、そんな感じ。

たまには変な本も買おう

自己啓発のなんたるか、自己啓発本のなんたるかについては、書きたいことが山程あるのでブログ延命のために小出しにしていこうと思う。検索にもよく引っかかりそうだしね!

偉そうなことをつらつら述べたが、そもそも当ブログだって当たり前のことを水で薄めてビチャビチャと垂れ流しているだけなので、あんまり上から物申す権利は無いと思う。私が1番言いたいことを以下に記して終わりとする。自己啓発本を10冊買うくらいなら、かわいいねこの写真集とか、黒魔術の本とか、キモい深海魚の本とか、1冊くらい混ぜてもいいんじゃないかなあ。

 

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