珈琲三杯|思索のための思索

限界フリーターが毎日の思索を書き綴る。手帖の代わり、或いはゴミ箱。

承認する人々についての覚書|救うゾンビに救われるゾンビ

「承認欲求」のゲシュタルト崩壊

センチメンタルネットサーファーに問いたい。ネットの海を彷徨っていて、1日でも「承認欲求」という言葉を見かけない日があるだろうか。タイムラインを眺めていても、ブログを読んでいても、適当なサイトを転々としていても、あちこちから聞こえてくるは「承認欲求」。どこに行っても必ず誰かが承認欲求について考えていて、承認欲求について議論していて、時に承認欲求を殴ったり蹴ったりしたかと思えば、次の瞬間には承認欲求を抱きしめてわんわん泣いたりしてる。つまるところ……みんな承認欲求というものが気がかりで仕方ないのだろう。旅行当日の天気のことくらい、承認欲求のことを気にしているように見える。カレンダーを1枚めくって初めて今年のバレンタインデーが休日だと気づいた時の女子高生くらい、沈痛な面持ちが画面越しに透けて見える。

相手がいなくちゃ承認は成り立たない

ここで私はふと気づいた。みんな「承認を受ける側」のことばかり考えている。「人間ならば承認欲求を持っている・・・・・・・・・・ のは当たり前」「認められたい・・・・・・ と思うのはおかしいことではない」「目立ちたがりは承認を得たい・・・・・・ という欲が強く……」「承認欲求の強い人・・・・・・・・ はその裏で寂しさを抱えており……」云々。承認を受ける側の人間がいるならば、承認を与える側の人間がいるのは当然だ。承認は、一体誰が与えているのか?インターネット世界の発達で誰でも気軽に承認を得られる時代になったわけだけれど、彼らの承認欲求を満たしてあげているのは一体誰なのか?お客様の中に承認者の方はいらっしゃいませんか。

ささやかだけれど確かな承認

大仰に問いを投げたが、答えは簡単である。我々だ。呼称については「私たち」でもいいし、「僕ら」でもいいけれど、とにかく我々だ。認められたい我々こそが日々誰かを認めているのだ。ウイットに富んだツイートが目に入ったからとりあえずお気に入りに入れておく。記事を読ませて頂いた駄賃代わりにスターを置いていく。1枚の絵に自分の推しと推しが描いてあったから、反射的にいいね!を押す。掲示板で面白い書き込みがあったから思わず「ワロタ」とレスをする。承認した本人さえもしかすると明日には忘れているかもしれない、それくらいのほんのささやかな承認が、日々世界を飛び交って、誰かを癒しているのである。もちろん、現実世界でも。

陰気なゾンビが地球を回す

他人を承認する――平たく言えば「褒める」行為は、頭でイメージしている以上に、精神が健やかでなければなかなか出来ないものだと思う。精神が健やかでない時は、他人のちょっとした成功や買い物や外出の報告にさえなんだか無性に腹立たしさを感じたり、或いは今の自分の状況と比較して無性に悲しさや虚しさを感じたり、健やかでない精神に比例するように健やかでない反応ばかり出てくる場合がある。そんな状態で無理くり他人を承認しようとすると、平時の何倍もエネルギーを消費する。自分の気分が落ち込んでいる時に見る「他人のいいもの」はよくぶっ刺さる。もちろん一概にそうとは言わない。気分が良くないからこそ、他人のいいものを見て、他人のいいものに縋って、他人のいいものからエネルギーを得ようとする場合もあるだろう。文でも、絵でも、写真でも、音楽でも、何か……何かいいものはないか。今すぐ何かいいものを摂取しなければ死んでしまう……という具合に。とはいえやっぱり、他人を承認するにはエネルギーが要る。他人を承認する言葉――褒め言葉(でない場合もあるけれど)をひり出すのも、楽ではない。だからこそネットの各サービスにおける「ふぁぼ(お気に入り)」とか「スター」とか「いいね」のような、たとえエネルギーが枯渇してゾンビみたいな状態でも、ぽち、と押しさえすれば他人を承認できるシステムは素晴らしいと思う。今日もどこかのゾンビの1ふぁぼが、どこかの誰かを救ったのだ。ゾンビにだって、救済は出来る。

みんなすごーい!

何が言いたいかというと、承認を与える側もすごーい!ということだ。承認を受ける側というものは、何かいいことをしたから、いいものを手に入れたから、いいものを世に発信したから承認されるのであって、すごーいのは当然だが、承認を与える側もそれに負けず劣らずすごーい。承認するって本当にエネルギーが必要だから。自分のエネルギーを削って、他人に承認を与えて、他人を救済している。これをすごーいと言わずに何と言おうか。ある日、疲れて帰ってきたあなたはベッドに寝っ転がり、スマホでぼんやりとブログの記事を読んだ。始めたばかりのブログにしてはそこそこうまく出来ている記事だが、目を見張るほどの含蓄はなかった。そのまま何もせず戻るボタンを押すことも出来る。でもまあそれじゃアレなので、スターを1個だけ投げて帰るか。ぽい。その瞬間、あなたはすごーい。誰かを救ったのである。

 

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