大人たちのおみせやさんごっこについての覚書|人間は人間の欲しいものを作るのが上手すぎる
おみせやさんごっこしてる子供がカワイイならおみせやさんしてる大人もカワイイに決まってるだろ
人が発する「いらっしゃいませ」という言葉、それすなわち「我々はあなたがたに何かを提供したり披露する用意がバッチリ出来てますよ」ということであって、具体的に言えば「おいしそうなチョコレートいっぱい置いてみたよ」とか「コーヒーの淹れ方をいっぱい練習したよ」みたいなものなわけで、ただ大人だからそんなカワイイことを口に出さないだけであって、つまるところ「みんなのために頑張ったから見てってほしい」の一言に尽きるわけで、あれもしかして人ってカワイイのでは
コンビニをたった一周するだけでも「これいいなあ」というぼんやりした欲求が次から次へと発生するのめちゃくちゃ怖いと思うんですが
消費者に向けて何らかの得を提供しようとするあらゆる試みにおける、いや、人の無意識という底なしプールの中から彼らの「欲求」なるものを何とかして引き摺り出そうとする試み全般における、あの健気さ、殊勝さ、いじらしさ……お可愛いこと。キャンペーン。セール。フェア。バーゲン。イベント。プロモーション。なるほど。なるほどね。カワイイ人間のカワイイたる所以がここにあるのだね。諸々の研究や情報分析に基づいて、他人の欲求をその深層心理から引きずり出そうとしている側の挙動は実に知的生命体らしいと言える。けれどもその一方、そのなんだ、そういうことを一所懸命考えて実行している人間はカワイイと思う。人間のアイデアは総じてカワイイ。そんなカワイイアイデアを思いつく人間もまた、カワイイ存在なのです。では、欲求を引き摺り出された側のカワイイについてはどうだろうか?無意識の中から明確な意識として欲求を引き摺りだされた人間の持つあの従順さ、人が一生懸命商品を選んだり、それを抱えて一生懸命レジに並んだり、一生懸命対価を差し出したり、一生懸命スタンプカードにはんこをポンとしてもらっている姿、これをカワイイと言わずになんと言おう!行列に並んでいる人間なんかまさにそうだ!欲求が今まさに満たされんとするその瞬間、人はどこまでも従順になれる。そしてあの愛くるしいまでの従順さを見るに、そういや人間も動物だったなと再認識させられるのであった。
これ以上人間のごっこ遊びに付き合ってられるか!俺は部屋に戻るぞ!
イヤイヤイヤイヤ待ってくれ、人間は一体何をやってるんだ。我々は他人の欲求を駆り立ててメシを食っている。とはいえ、他人にとって必要不可欠な欲求を駆り立ててメシを食っている人間なんかごくごく少数だ。水や塩の供給に直接携わっている人間はそれに当てはまるかもしれないが、大多数はそうではない。我々は他人のいらん欲求を駆り立てることによってメシを食っているのである。それが我々の世の中、経済、商売というものだ。だが考えてもみてほしい、他人のいらん欲求を駆り立てることはそんなに楽しいか?それまで米だけで十分満足していた人間をそそのかしてパンを食わせるだけに飽き足らず、未来永劫保障されたパンという選択肢まで与えてやることで、そいつがその後の人生ずっと「今日は米にしようかパンにしようか悩むなあ」などといった軽微な苦しみを感じるさまを眺めるのはそんなに楽しいか?……ああいや、そうだ、選択が苦しみであるとは限らないんだった。選択肢が存在することが苦しみでない人間もいるんだった。選択とは楽しいものであると感じられるのなら、それが1番幸せだ。
ドンキに行くと大体こうなる
本人が自ら望んだわけでもなし、あたかも曲がり角における接触事故のように、こちらに向かって勢いよくぶつかってきた欲求、そんな貰い事故も甚だしい一方的な欲求にそそのかされるまま、手元の欲求が示す方角にフラフラと歩き、フラフラと商品を買い、サービスを受け、フラフラと帰る、気づけば手元の欲求はどこかに消えている、ここでようやく自分が病院に行かなきゃならんことに気づく。あのですねえ、先生、少し前に曲がり角で派手な事故に遭いまして、ああいえ僕自身は平気なんですけど、さっきからずっと財布が痛むんです。そんな感じで日々暮らしている人間はカワイイし、なんだか可愛そうだ。
不要不急の欲求
エライ人たちが我々に経済活動というおみせやさんごっこを強いているから、我々はおみせやさんをしなきゃならんのだって、労働は義務化されたおみせやさんごっこで、人生は義務化されたおままごとだって、そう考えなきゃ恐ろしくてやってられない。欲求は怖い。何故なら底なしだから。生きるのに必要な最低限の物資が毎月届く定期便だけで生きていきたい。私はいらん欲求を煽られたくないと言いながら、他人のいらん欲求を煽って生きているのだ。そんな矛盾は全てエライ人たちのせいにしてしまおう。だって、おみせやさんごっこは義務なんだから。ハァ~、いらっしゃいませ~。