珈琲三杯|思索のための思索

限界フリーターが毎日の思索を書き綴る。手帖の代わり、或いはゴミ箱。

他人の犬の帰宅と私の帰宅についての覚書|家にいながら帰りたくなる人の性

人間を散歩させるのも犬の仕事のうちですから

夜勤明けの朝6時頃、爺さんの散歩を済ませた犬が爺さんと一緒に自宅の中へ入っていく光景を見た。へえ。犬ってあんな風に家に入っていくんだ。ふぅん。室内でペットを飼っている人にとっては当たり前なのかもしれないが、こちとら生まれてからずっと安い賃貸を転々とする生活、犬なんてもちろん飼ったことがない。だから、犬が勝手知ったる顔で家の中に入っていく光景は実によかった。あの家の犬にとっては、あの家に帰ることが当たり前なんだな。他人の家の中をじっと見つめるのもなかなか不躾とは思ったが、廊下をすたすた歩いて奥に消えていくまで目が離せなかった。爺さんが玄関を閉め終えると、数秒前までのほのぼのした空気感は何処へやら、そこには既に他人の家がひとつ残されているだけであった。ウン、よかった。後ろ姿がよかった。おケツがぷりぷりしていたのもよかった。爺さんのじゃなくて。犬の。

 

あったかハイムが家で冷えてる

帰る家があるのはいいことだなあ、とそれっぽいことを続けようとして、なんか違うなと思いとどまる。これじゃまるで私が帰る家がないヤツみたいじゃないか。帰る家くらいならある。一応。実家に勘当されたとか親に縁を切られたとかそんなことはない。それどころか月に1度は親がアパートに押しかけてくるくらいだ。アパートの家賃も今のところ滞納したことはないし、揉め事も起こしてない。毎日帰る家はある。一応。合わせる顔があるかと言われれば微妙なところではあるが、今書いた通り月1で親の方からやってくるくらいであるし、ポンコツフリーターなりによく働いていると思うので、合わせる顔はギリギリあると思う。物理的に合わせる顔もある。首から上は存顔だ。鑑賞に耐えうる顔であるかは別として。

 

生前親しかった人間の葬儀に赴くような顔で家に帰る人

ならば私はあの犬を見て、何を羨ましいと思ったのだろうか。それはきっと「ドアを開ける前に気がかりなことがなにひとつなく、晴れやかな気分でずかずかと帰れる家がある」ことだろう。私の場合、部屋は散らかっているし、掃除はロクにできていないし、しょっちゅう虫とエンカウントするし、何よりクッソ暑いこの家に帰ることが、気がかりなことがなにひとつない状態でいることを妨げている。また、帰ったらくたくたの体に鞭打って顔を洗わねばならぬし、洗濯をせねばならぬし、何より次の日も労働が待ち構えているということが、晴れやかな気分でいることを妨げている。一応、私がずかずかと家に入ることを妨げるものは何もない。強いて言えば、帰宅直後の部屋が暗い状態だと、高い棚の中にあるものを取るために置いている小さな丸椅子にしょっちゅうぶつかることくらいであろうか。それさえ回避すれば私はずかずかと家に入ることができる。ただ、気持ちだけがいつも恐縮している。

 

生前親しかった人間の葬儀に赴くような顔で人を迎える家

きっとあの犬は、部屋が散らかっていることやあちこち汚れていることを、ドアを開ける前から気がかりに思ったりはしないだろう。ドアが開いたから入る。自分の家だから入る。ここが帰る場所だから入る。ただそれだけなのだろう。もちろん顔を洗ったり洗濯をしたり翌日の労働の支度をする必要もないし、犬であれば多少の暗がりで丸椅子に脛を強打するなんてこともあるまい。無邪気な帰宅が羨ましい。私も尻をぷりぷりさせながら無邪気に帰宅したい。自分じゃない誰かにドアを開けてもらって。このあとは何をして遊ぼうかな、それとも少し寝ようかな、水を飲もうかな、ごはんを食べようかな。それだけ考えながら、無邪気に帰宅したい。もしそれさえも考えなくて済むのなら、それはもっといいことだ。

 

お風呂orごはんor諭吉

帰宅したときにそこに居たら嬉しい人がそこに居たならば、こんな気分が吹き飛んだりするのだろうか?ウーン、それは素敵なことなのだろうが、白黒にはイマイチ分からぬ。ひとりを愛するが故に。帰宅したらいつもそこに1万円が居る、そんな毎日ならば嬉しいかもしれない。なんならそこから1000円を天引きして、おいしいごはんを作ってくれたってよい。9000円、それとごはん。最高。そこからさらに1000円を引いて、簡単な掃除と片付けをしてくれたってよい。8000円、それとごはん、それと綺麗な部屋、最高。金があってお手伝いさんを雇うってのは、こんな感じなんだろうな。そこに居る1万円は自分の懐から出たものだが、もしも十分な金があるのなら、出勤前には毎日そこに1万円が居るようにしておきたいなあ。で、帰ってきたら2000円減って8000円になってるけど、ごはんはあるし、綺麗な部屋もあるし、8000円だってまだそこに居る。ウーン、いい家だ。

 

ギャルの定義の更新が大分前から止まっている人

今生でどれほどの徳を積めば、来世において、爽やかな早朝に爺さんを散歩に連れて行ったあとで無邪気に帰宅できるような犬になれるのだろう。今からでも間に合うだろうか。ウウ。来世はになるぞ。だが昔の記事で来世はカリスマギャルになるとか言ってたな。じゃあカリスマギャルっぽい犬になるぞ。いぬぽよ~

 

 

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