珈琲三杯|思索のための思索

限界フリーターが毎日の思索を書き綴る。手帖の代わり、或いはゴミ箱。

自分のことを数え損ねる覚書|手持ちのパンツの枚数を調べるときにタンスの中のパンツだけ数えて今履いているパンツを数え損ねるみたいな

誰もいない(誰もいないとは言ってない)

人はしばしば、「自分しかいない」状態を指して、「誰もいない」という。あれってほんとなんなんだろうな。例えば「私は誰もいない部屋で一人佇んでいる」という文章を目にしたとき、多くの人は何の疑いも抱かず、ごくごく自然に「私さんがぽつんと一人いる部屋」を想像するわけである。あれってほんとなんなんだろうな。このすこぶる頭悪い疑問を解決するためには、ただ少し言葉を補ってやるだけでよい。すなわち、「私は自分以外誰もいない部屋で一人佇んでいる」とすればよいのである。もしくは先に言ったように、「私は自分しかいない部屋で一人佇んでいる」とすればよい。

 

住人全部俺

人は、自分という概念をあまり勘定に入れたがらないのかもしれない。私はアンケートサイトで小銭稼ぎをするのが趣味なのでよくわかるのだが、世帯構成を尋ねる質問とかに、「あなたをのぞくご家族の方は何人ですか」とか「同居されている方の人数を教えてください(あなたを含めない)」とか書いてあることはしょっちゅうである。その「あなたは数に入れないでね」という箇所をわざわざ太字にしたり赤字にしたり下線を引いたりとやたら強調してくる。そこまでしてあなたさんをのけ者にせんでもいいじゃないか。いや問題はそこじゃないな。そもそも我々は「家族」や「同居人」の数を教えろと言われているんだから、質問文をきちんと読みさえすれば、わざわざ強調して頂かなくともそれは容易に理解され得ることなのではないか?それほど質問文もロクに読まない人間が多いってことか?それとも、世の中には、「家族」や「同居人」の数を教えろと言われてそこに自分をカウントしてしまうような人がいるのか?それ、なんかちょっと羨ましいな。

 

「……」「……」「……」「……」「……」「……」

「あれ、全員分の椅子を持ってきたはずなのに1つ足りない」「ちゃんと自分のことも数に入れた?」「あっ」のような会話を、誰しも1度くらいは経験したことがあるのではなかろうか。なにかが必要になって、 目の前にいる・・・・・・ 人間の数をひいふうみいと急ぎ数えて、丁度その数と同じだけのなにかを持ってきたつもりで、1つ不足する。面白いなあ。自分を数え損ねるというシチュエーションは実に面白いなあ。まあ、こういう場合においては数え損ねたのが自分ならまだいい方で、その場にいる誰かを数え損ねていたときの気まずさったらない。「ちゃんと自分のことも数えたよ!Aさんでしょ、Bさんでしょ、Dさんでしょ、Eさんでしょ、それとわたし、ほら5つ!」「Cさんは?」「あっ」となったときの気まずさね。逆に増えてたら、怖いよね。「あれ、人数分ちょうどの椅子を持ってきたはずなのに1つ余る」「本当にちゃんと数えたの?」「ちゃんと数えたよ!Aさんでしょ、Bさんでしょ、Cさんでしょ、Dさんでしょ、Eさんでしょ、それとわたし、ほら6つ!」「……『わたし』って、誰?」「えっ」

 

ほら人間って己の目と鼻の先にある幸せにはぜんぜん気づかないじゃん

自分という存在はあまりにも自分と近すぎるゆえに、却って数えることができないんだろうなあ。顔面に書類をぐりぐり押し付けられても読めっこないように、なにごとも近けりゃいいってもんでもない。近けりゃ近いほど理解できるってわけじゃあない。顔面に押し付けられた書類上の文字が、ただのぼんやりした墨色の染みに過ぎないように、近すぎる自分の存在なんて、白い紙の上のぼんやりした墨色の染みみたいなもんなんだ。それを見るためには、読むためには、理解するためには、書類と自分、お互いが少しずつ離れていなくちゃだめなんだ。どちらか片方だけが離れる義務を負うのはあまりに不公平だから。歩み寄りの精神でもって、お互いに少しずつ離れていかなくちゃ。ところで、自分と自分がお互いに少しずつ離れるコツってあります?

 

三沢大地をすこれ

うっかり自分のことを数え損なっていた。そのことに気づいたまさにその瞬間から、自分の存在がどんどん肥大していく感覚はなんだかおっかない。いたんだ自分くん」「ずっといた!」ってやつですね。この「ずっといた!」ってのが、おっかないんだ。なんかすっげー怒ってるし、こっちを睨みつけて、どんどん近づいてくる。近づいてくるって、どこから?自分と自分は既にもうこれ以上近づきようがないくらい近かったはずでは?一体どこに、「どんどん近づいてくる」だけの距離があるんだ?ゼロより左側の世界からやって来たのかな?どんな形であれ、自分がそこにいたことに「気づく」。その瞬間こそ、最も自分が自分に牙を剥く瞬間である。

 

 

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