あなたが私のことをただ知っているだけという薬についての覚書｜『推しは宗教』という偉大な言葉があるんだ

POISON

引きたい風邪も引けないこんな世の中じゃ

多方面への配慮を怠らないブロガーの鑑

「風邪も引けない」というのは、もちろん字面通りの意味ではない。「風邪を引くことが出来ない」という意味ではないし、「風邪を引いてはいけない」という意味でもない。我々は意図的な不摂生などによって引こうと思えば容易に風邪を引くことが出来るし、風邪を引いてはいけませんなんて公の決まりはどこにもない。ただ……そう、分かりますね？今の世の中に生きている人なら、私の言いたいこと、分かりますよね？あ、万が一読者諸賢の中に今の世の中に生きている人ではない方がいらっしゃったらいけないので、次の段落で一応説明しようと思います。今の世の中に生きている人ではない方、ご安心ください。

疑念の目を向けられる程度の間柄ってことでそこは諦めよう

つまり一言で言えば、かつてのように「風邪引いたかもテヘペロ」と気軽に言うことが出来ない世の中になったということである。我々はかつて、頭が痛ければ頭が痛いと言い、鼻水が出るなら鼻水が出ると言い、喉が痛いなら喉が痛いと言い、熱っぽいなら熱っぽいと言い、それで家族なり友人知人なり仕事仲間なりから心配の声を掛けてもらえたのだ。だが今はといえば、ハイ、そういうことです。勿論全員が全員とは言わないが、体調不良を周囲に訴えて尊いお情けをかけて頂くというその場しのぎだがとてもよく効くお薬を処方してもらうことに躊躇いを覚える人がかなりの数いるだろう。それで、正直ちょっと辛い、少し休ませてもらいたい、でももし例のアレだったらまずい、周囲にいらん心配をかけてしまうし、何より「ねえあの人さっき喉が痛いって言ってたんだけどもしかして……」などという疑念の目を向けられるのがいちばん堪らない、近日中に検査して結果が出るまでは体調が優れないのを黙っておこう、となる。そうして軽微な体調不良を我慢してさも何事もありませんよという顔をして学業なり仕事なりを続ける人間が、あちこちにいるはずだ。

最早例のアレ関係なくてただのかまってちゃんなんだよなあ

今の世の中に生きている人ではない方、お分かり頂けたでしょうか。今の世の中に生きている方、なにを今更言ってんだって感じでしたよね。私は酷い頭痛持ちなので以前は軽率に「頭痛いンゴ～～～グエ～～～」などと発言していたが、今となっては「あ……」のところで躊躇してしまう。「あ……」と言いかけたところでグッとその言葉を飲み込み、無言で頭痛薬を飲み込む。それでしばらくして頭痛が治まれば、よかった、いつもの頭痛や、となる。実際はなにもよくない。しかし私はクッソ頭が痛いのを無言で耐え凌げるほど強い人間ではないので、毎日頭痛が起こる時間、深夜2時から朝方5時くらいの間には、「頭痛いンゴ～～～グエ～～～」と言いたくて言いたくて仕方がない。心配してほしいなどという贅沢は言わない。「フーンそうですか」「だからなんだよ」「そのまま死んでくれ」でもいい。無言で一瞥されるだけでもいい。今この瞬間私以外の誰かが私が頭痛で苦しんでいる事実を知っていること・・・・・・・ 、それこそ何にも代えられない薬なのだ。迷惑なヤツだという自覚は大いにある。誰かに向かって頭が痛いと言ったあとは決まって後悔と自省と羞恥がやってくる。「また頭痛いって言っちゃた……」というどうしようもない気持ちでいっぱいになる。でも頭がクッソ痛いのは本当にどうしようもないンゴ～～～グエ～～～

誰かが誰かを知るだけでこの世から悲しいことがいっぱい減ると思うよ

誰かに知ってもらえることが最上の薬というならば、誰にも知られないことは最上の毒と言えるのだろう。誰にも知られず、誰にも気づかれず。ただひっそりと。自分だけのもの。そういうのはおやつをひとり占めしたいときだけで十分だ。そうだろう。この世には山ほど人間がいるのだから、その中の一人くらいは自分に最上の薬を処方してくれる人物がいるはずだ。70億人全員が医師で、薬剤師なのだ。それに、医師で薬剤師なのは生身の人間だけとは限らない、実家の犬、そのへんの猫、時として彼らも人間と同じくらいの名医・名薬剤師になる。それに、最上の薬を人間ではなく、人間よりずっと偉大な存在に処方してもらえるよう一生懸命お願いするのが、すなわち宗教でしょ。神様は知っているし、仏様は気づいている。スパゲッティ・モンスターだってそう。今でこそ彼らは我々の前で黙しているけれど、我々が死んだらいくらでも声をかけてくれるし、最上の薬を処方してくれる。に、違いない。

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悪ふざけにしか見えないけど実際はかなり真面目な理由から生まれてるんだよなコレ