珈琲三杯|思索のための思索

限界フリーターが毎日の思索を書き綴る。手帖の代わり、或いはゴミ箱。

たったひとつの焼き立てパンから始まる騒々しくも幸せな朝についての覚書|大きくなったらふかふかのパンになる

パン購入レポです

「こちらのパン焼き立てと替えておきますね~」。朝9時半、とあるパン屋のレジにて。完全に油断していたので一瞬なんのことか分からなかったが、まあ要するに私がレジに持ってきたものと同じパンの焼き立てがあるのでそっちと交換してくれると。わあい。こいつぁラッキー。ビニールの個包装に詰められていた古い方のパンを引き、今まさに焼き上がったばかりの新しいパンを棚から取り出して、紙の個包装に入れてくれるお姉さん。ていねていねていねいにお礼を言って会計を済ませ、パンを手に取熱ゥイ!!!!!!!焼き立てってレベルじゃねえぞ!「熱いのでお気をつけてお持ちくださいね~」。遅ォイ!!!でもありがとう!!!漫画的表現で上方にパンを放り投げたい衝動(※下図参照)をグッと堪え、紙袋に包まれたパンを握油ァ!!!!!!!油すごい!!油すっご!!!さすが焼きたて!!!握ったところから袋がどんどん変色していく!!!白い紙袋がどんどん透明になっていく!!!お姉さんどうして直接紙袋に入れたの?!これってバターの油かな!?もう指中油まみれや!!どうしようこれバッグに入れられないよ!!指テカテカしてきた!!!つづく!!!

 

よくわかる図

はい

 

パン購入レポの続きです

往来の隅っこで、なにかばっちいものでもつまむように(ごめんなさい)、爪の先で変色した紙袋の先っちょを掴んで途方に暮れる私。実際立っていた場所は隅っこだが、内心渋谷のスクランブル交差点のど真ん中で立ち尽くしているような気分だった。このままバッグに入れたらバッグの中身が油まみれになってしまう。指は既に油まみれである。なんか1枚くらいビニール袋持ってなかっただろうか。考えること数十秒、バッグの底からビニールを引っ張り出すこと数十秒、うまくビニールが開けなくてもたもたすること数十秒、なんとかビニールに入れたパンが潰れないようにバッグの中身を整理すること数十秒、多分3分くらいは道端でなんやかんやしていたと思う。やばい!!バスに乗り遅れる!!早足でバス停に向かうと目の前で発車するバス。チーン。やめよう。やめやめ。深く考えるのはやめよう。無言でバス停のベンチへ……歩み寄る途中でつまづいて尻餅をつくようにドスン!!と座る私。次のバスを待つ間、カバンに入れたほかほかのパンを指先で弄りながらぼんやり思う。「これ晩ごはん用のパンなんだよなあ」

 

見てこのすごいじゅわわ

これをあったかいうちに食べられたらどんなによかったことでしょう

 

リベイク用のトースター買おうね!!!!!!!!!

大丈夫。大丈夫です。これは誰も悪くない。パン屋のお姉さんも焼き立てのパンも私も誰も悪くない。焼き立てのパンってのはね、幸せの象徴なんです。だから私は幸せでなくちゃいけないんです。結果がどうあろうとも幸せを噛み締めなくちゃいけないんです。だってたまたま会計をしにいったタイミングで同じ種類の焼き立てのパンが厨房からやって来るなんて、朝からそんな幸せ、ある?もしこれを朝ごはんに出来るなら最高じゃないですか。淹れたてのコーヒーと一緒にあつあつのパンをはふはふ食べる幸せ。想像するだけでお腹と背中がふかふかサンドイッチですよ。あのときはたまたま1つの焼き立てパンから不幸の連鎖が続いてしまったけれど、幸せになる方法なんていくらでもあったじゃないですか。たとえば、少し考えて最初から紙袋の端っこを持てば幸せだった。指が熱くなくて幸せだった。たとえば、袋代をケチらなければ幸せだった。「やっぱり袋ください」と言いさえすれば幸せだった。たとえば、焼き立てのパンを持ってそのまま近所の公園のベンチに座ってかぶりついていれば幸せだった。あったかいパンをあったかいうちに食べていれば幸せだった。たとえば、バスの時間を考慮してあと3分早くパン屋に寄っていれば……いや……もしも私がバスの時間を考慮してあと3分早くパン屋に寄っていたならば、きっと焼き立てのパンには巡り合えなかったんだ。ああ。ああ……ああ。私はどうすれば幸せになれた?

 

幸せになるにも勇気が必要なんじゃ

まあこんな具合でね、ひとつの大きな幸せからいくつもの小さな不幸を引きずり出してしまうようなことってあるわけですよ。幸せは義務ですみたいなことを言ったけど、流石に今回ばかりは幸せがヘタクソなんですねって言われてもしょうがないくらい幸せがヘタクソだった。バスに乗って家に着いたら、パン、もう冷めてたし。どうせ最初から晩ご飯用として買ってたから別にいいんですけど。でもね、折角あったかい焼き立てのパンを用意してもらったのにさ。次あのパン屋に寄ることがあったら、何が何でも幸せになろう。パンが焼き上がるタイミングで同じ種類の陳列済みのパンを敢えて持っていき交換してもらうなんてそんなこと狙って成功できるもんじゃないけれど。仮に焼き立てがあったとしても、替えるか替えないかなんてそんなの店員さんの気分次第でしょ。ああでも、もしも焼き立てのパンを交換してもらえたら、熱いのも指に油が付くのもバスの時間も通行人の目も気にせず自販機でコーヒー買ってそのへんで突っ立ったままムシャムシャ食ってやるんだからな。それが私に出来るいちばんの幸せなんだからな。なんて、言ってみるだけ。言ってみるだけだよ。できっこないもの、そんなこと。