カワイイ酔っ払い共とひとつまみの理性についての覚書｜セルフレジは導入したらしたで新たなストレスの温床になるので従業員のストレスは尽きることがない

セは「従業員にも少しは楽させてクレメンス」のセ

これは重要なので前もって言っておくが、メインのバイト先はセルフレジを2台完備している。一部例外はあるが、基本的に客はセルフレジで勝手に入店しセルフレジで勝手に退店出来る仕組みである。やったね。で、ある時呼び出しボタンで呼ばれたので受付に行ったら、開口一番酔っ払った客のおっちゃんに「お前は一体何を考えとるんだ」と怒鳴られた。続けて、「受付に店員がいないとはどういうことだ、俺はとても気分が悪くなった」と喚き散らされた。はあ。お前は一体セルフレジが何のために存在すると考えとるんだ。こういうことは慣れっこなので、適当に流して手動で入店手続きをしていると、そのおっちゃんは次第にデカい体をモジモジさせながら、「あー、あの、俺ちょっとな、酒飲んでて、あー、酔ってるから、気が大きくなっててな、ごめんな、さっきちょっと、叱ったけど、ごめんな」と、たどたどしい口調で謝罪し始めた。その後、私は大変晴れやかな気分でおっちゃんを送り出した。謝ってもらえたからではない。酒に酔って平時の思考力の大半が損なわれている中、必死こいてなけなしの理性にしがみついているおっちゃんの姿がとても良かったからだ。

ルは「そこに『お会計の方は自動精算機をご利用ください』って書いてあるやん」のル

僅かに残った人間の正気が、今にも霧散しそうな理性の真砂を必死にかき集めている様はとても「ひと」らしくてカワイイと思う。まあ、大抵の酔っぱらいはそれに失敗するのだけど。しかしあのおっちゃんは、私の目の前でそれを果たしてみせた。天晴れ！北も南も分からぬ真っ暗な天空に、理性という輝かしい星を見事打ち上げてみせた！世の中の呑ン兵衛どもは、いざとなればかき集めてつまめる程度の理性は残しておいてほしいものだ。いや、つまめる程度理性だけじゃいけないな。つまめる程度の理性をつまむための理性まで、残しておいてほしい。理性をつまむにも理性がいるんだよ。理性をつまむのに本能を使おうとするのは、砂場の砂を集めるのにフォークを使うようなものだ。もしあのおっちゃんがなけなしの理性をつまむのに本能というフォークを使っていたならば、「俺酔ってるから～～～～怒ってごめんな～～～」とヘラヘラ謝罪したのち、おもむろに上着とズボンを脱いで床に寝っ転がりその場でグースカ始めただろう。なるほど、己が酔っ払っていて、そのせいでうっかり怒鳴ってしまったということを認識するだけの・・・・・・・理性は残っているらしいのだが、そのなけなしの理性に行動が伴っていない。理性を、理性で、つまんでいない。つままれる思考に理性、それをつまむ行動に理性、2つ揃って初めて完全な理性なのである。

フは「画面を殴るとフリーズするのでおやめください」のフ

夜勤という関係上、酔っ払って入ってきてその辺で転がってる客は何人も見てきた。最も印象に残っているのが、ハロウィンの晩、長髪のウィッグを被りセーラー服のコスプレで入店した立派な体格の若い男性で、数時間後、ウィッグをどこに落としてきたのか、坊主頭にセーラー服にパンツ丸見えでスタッフルームの中に転がっていた時は流石に「地獄かな？」と思った。酔いが醒めた彼は謝罪も虚しく出禁になった。この前(本当についこの前)までの私は、なんか色々と余裕がなかったので、正気を失くして迷惑行為を働く輩に大して逐一憤慨していたのだが、最近(本当につい最近)は、そこまで理性を手放せる彼らの勇気と度胸に感心を覚えるくらいにはなった。これ多分何かが一周してますね。だって、怖くないですか。理性とか正気を手放すの。しかし今となっては彼らがいかに周囲の人間を無条件に信頼しているかが分かるので、却って微笑ましくさえある。仲間と一緒の時ならまだしも、ひとりのときにそんな状態になったら、目が覚めて一文無しどころか手足や内臓がいくつか無くなっててもおかしくないわけでしょう。名前も知らぬどこかの誰かを、心の底から信頼しているのね。カワイイわ。

レは「機械をバンバン叩くと壊れるのでおやめください」のレ

酔っ払って来店した客に振り回されるだけじゃ(非常に)癪だし、これからは彼らにどのくらい理性が残っているか推察する遊びでもやって、その場を切り抜けようと思う。理性当てゲームだ。これから春休みになって、飲み会帰りの若い人たちが増えてくるんだろう。絡まれて厄介なのは年高の人だが、若い人はそこら中でゲロ吐くから本当に勘弁してほしい。以前泥酔してご来店ののち救急搬送された自衛隊のお兄さん(当時19)、元気にやってるかしら。老いも若きも、つままれる理性とつまむ理性、どちらもちゃんと残してからご来店くださいね。