珈琲三杯|思索のための思索

限界フリーターが毎日の思索を書き綴る。手帖の代わり、或いはゴミ箱。

甘い物が唯一の親友だった時の覚書|チョコレートを殴って倒す

大きな食品スーパーの中をフラフラと歩くのが好きだ。コンビニの新商品コーナーを見て市場の流行を知ったような気分になるのが好きだ。カルディの狭い店内を忍者の如く進むのが好きだ。駄菓子屋で昔よく食べた駄菓子のサイズが値段据え置きで一回り小さくなっていることに気づいて悲しくなるのが好きだ。ダイソーのキャンディ売り場が好きだ。ほとんどお菓子やんけ。

ただ、こうして見た物を実際に買うことは最近ほとんど無い。美味しそうだなあとぼんやり考えるだけで、欲しいと思わない。あくまで、最近は。

以前はチョコレートと手を繋ぎ、クッキーと肩を組み、背後にシュークリームやらキャンディやらグミやらドライフルーツやらジャムやらグラノーラ(お徳用)やらをぞろぞろ従えて歩いていた。彼らは友人だった。親友だった。しかし今日の私は彼らの骸を肴に酒を呑んでいる。彼らが再び立ち上がってくることは無いだろう。ドライフルーツの奴はまだかろうじて息があるが、身体にいいものもいるので、虫の息のまま生かしておくことにしている。

 まあなんというか、以前の私はそれは酷い砂糖依存だった。

労働前に100グラムのチョコレートを食べないとやっていけなかったし、休憩時間に100グラムのクッキーを食べないとやっていけなかったし、労働後に100グラムのグミを食べないとやっていけなかった。

チョコレートを食べるために早く出勤し、更衣室で貪り食った。既に更衣室に誰かがいると流石に食べられないので、その場合はトイレで食べた。そのうちもう面倒なので、トイレに直行して食べることにした。音姫を何度も押して、食べる音を誤魔化した。トイレが埋まっていて食べられる場所が無いと、気が狂いそうになった。

 バイト中は常にイライラしていた。頭に血が昇ると同時に、甘いものを食べなければならない衝動に駆られた。耐え難い怒りがボンと沸くその瞬間、脳内にクッキーやチョコレートの映像が浮かんで、それが頭にこびり付いて1日中離れなかった。そういう時は勿論、クッキーやチョコレートを買って帰った。帰宅後すぐにツイッターで愚痴りながら食べた。

 休日はいつも起床と同時に「スーパーへ何を買いに行くか」を考えていた。日頃は甘いものばかりだが、休日は煎餅やおつまみなど塩気のあるものも欲しくなった。柿ピーやいかフライなんかの大袋をペロリと平らげていた。

 当然体重は増えた。顎と腹、太ももに肉が付いた。

妄想乙と笑い飛ばして頂いても構わないのだが、(化粧をした)容姿にはそれなりの自信があった。大学時代はよく容姿を褒められた。ナンパもされた。客から電話番号やアドレスを渡されることもあった。道端で自称カメラマンにモデルにならないかと言われたこともあった(渡された名刺のスタジオは架空のものだったけど)。ちなみに背は低い。

資格もなく、特別な経歴もなく、大学を中退してスーパーのレジ打ちデビューした惨めな女だったので、少しばかり(化粧をした)容姿に恵まれていたことだけが自信だった。自尊心の全てだった。

太っていくことは死ぬ程恐ろしかった。地獄だった。以前は鏡をチラッと見ては「おっ調子ええやん」などと悠長に思っていたのだが、顔に肉が付き始めてからは、鏡を見るたびにパニックになった。輪郭は明らかに丸いし、少し下を向くだけで顎の肉がムニっと主張した。レジから釣り銭を取るために下を向く、たったそれだけの動きでも顎の肉の存在を感じた。

気づけばスーパーの面接を受けたときから5kg太っていた。イオンで仕事着を買うとき、スキニーではなくストレートのパンツにした。自業自得ながら酷い屈辱だった。

ダイエットは勿論途中で何度も考えていた。甘いものを断とうと何度も考えた。何度も何度も考えた。何度も挫折した。金銭面でも不都合が生じ始めたので本格的に何とかしようと考えた。何とかしようとして、何ともならなかった。甘いものが四六時中頭の中をぐるぐるぐるぐる巡って、スーパーに行きたくて仕方が無かった。スーパーの閉店時間まで我慢したら、今度はコンビニに行きたくて仕方が無かった。欲求に勝利した時もあったが、大抵の場合敗北した。100戦18勝72敗くらい。そういえば最近は夜に近所のコンビニに行くことも無くなった。夜働いてるわけだから行けなくて当然だが。

現在はこういった症状はほとんど出ていない。全く出てこないわけではない。ただ、少なくともチョコレートやクッキーといった洋菓子が欲しくなることは無くなった。人から貰ったらありがたく食べるが、それきり。追加で欲しくなることも無い。私は(いつの間にか)チョコレートを倒してやった。ざまあみろ。クッキーも、グミも、キャンディも、無意識のうちに、全員倒してやった。とはいえ芋けんぴかりんとうは今でも好物で、時々買いに行く。だがフルーツグラノーラを丸々1袋食べたい衝動はやって来ないし、98円のビスケット全てに98円のマーマレード全てを塗って食べたい衝動も起こらない。昼食をチョコレートにするかおにぎりで我慢するか店内で30分以上迷った挙句、ビスケットと菓子パンを買って帰るなどという意味不明な買い物をすることも無い。砂糖依存はいつ消え去ったのか。分からない。

ここまで自分語りしておいて分からないんか~いという気持ちは自分でもある。話の落ちがないにも程がある。でも分からないものは分からない。もしかしたら甘いものを食べ散らかしたいという動的な憂鬱が、日々の疲労感で何もしたくないという静的な憂鬱に置き換わっただけなのかもしれない。いつか再び動的な憂鬱、あの凶暴な獣が私の中から顔を出すのかもしれない。でも今のところそんな予感は全くしないし、心配もしていない。

ちなみに最近の食生活はこう。

真夜中出勤なので、夜に起床する。豆腐を100グラム食べ、味噌汁をお椀半分、それから珈琲を1杯飲む。休憩時間の食事として、ご飯を0.3合炊き、弁当箱に入れて持っていく。帰宅後は醤油をお湯に溶かしただけの醤油汁を300グラム、その後珈琲を1杯飲む。大抵の場合これだけでは足りないので、近所のスーパーにトコトコ出かけて行って、食パンやかりんとうやドライフルーツを買ったりする。非常に疲れていて買いに行く気力がないこともある。その時はマリームをドバドバ入れた白い珈琲で腹を満たすか、日本酒を少し飲んで、寝る。帰宅後ではなく、バイト前に予めスーパーに寄っておくこともある。そこで買うのも大体食パン。食パンは耳だけ千切って、食べる。

 

 30時間、珈琲しか口にしていないことに気づいた。これを投稿したら、かりんとうを買いに行こうと思う。

 

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