珈琲三杯|思索のための思索

限界フリーターが毎日の思索を書き綴る。手帖の代わり、或いはゴミ箱。

開店10分前から始める読書についての覚書|持ち時間に限りがあるからこそ真価を発揮するかもしれないししないかもしれない人間

これが自給自足ちゃんですか

午前9時50分。横断歩道の信号待ちをしていたら、道の向こうのブックオフの入口に、ダンボールを抱えた爺さんがやって来るのが見えた。十中八九、ダンボールに詰めた本を売りに来たんだろう。別に何も気になるところはない。強いて言えば、開店まであと10分を残している点である。ブックオフ入口のドアはまだ固く閉ざされている。入口に陣取る爺さん。ウーン、まさか開店前に強行突入してくるタイプの客じゃあるまいな?内心ハラハラしながら様子を見ていると、爺さん、ダンボールを地面に置いて、ダンボールの中からおもむろに1冊を取り出し、その場で読み始めた。な……なるほど……。確かに本を立ち読みしていれば10分くらいあっという間に過ぎるかもしれないけど……。ああ、いや、いや、めちゃくちゃ理に適っているな?ブックオフで売るために持参した本を読みながらブックオフが開店するまでの時間を潰すの、あまりにも理に適っている。超スマート。スマホをポチポチしてるよりよっぽどスマート。やや、お見逸れしました。

 

「やっぱり売らなきゃよかったなあ」よりマシだと自分に言い聞かせろ

もしも私が開店前のブックオフの入口で売るために持ってきた本のうちの1冊に手を伸ばそうものなら、パラパラ読んでいるうちに「ふーんこれ結構いい本じゃん」なんて思い始めて、その1冊を売るのがなんとなく惜しいような気がしてきて、店のドアが開くのと同時に慌ててその1冊をバッグにねじこんで、何食わぬ顔をして残りを売り払い、そのまま家に帰ってきちゃうかもしれないな。そんで、家に帰って改めてその1冊を読んでみるのだが、なんということでしょう、店の入口で読んでいたときの面白さはサッパリどこかへ行ってしまって、特別興味深い内容でもなく、印象に残る話でもなく、手放して惜しいような代物でもなく、良くも悪くも無味乾燥というか、間違いなくその1冊は私の手によって躊躇なくダンボールに詰められたあの頃の姿のままで、自分は一体何故この本を持ち帰ってきたのだろうと首を傾げながら、「やっぱりこれも売ってくればよかったなあ」なんて後悔しちゃうかもしれないな。

 

競技種目:読書

本をいつもより少しだけ面白くする方法。あまり読書向きではない状況で、10分だけ、読む。先程の爺さんの例で言えば、開店前のブックオフの入口で椅子も机もなく突っ立ったままってのは、明らかに読書向きな状況ではない。10分だけ、それも特異な状況となると、やっぱりまずその本をパラパラとめくって、自分にとって興味深いところがないか探そうとする。几帳面な人なら目次に目を通すかもしれない。そんで、気になった部分をおもむろに読む。やがて10分が来る。なんとなく読み足りない。あと10分欲しい。もうちょっとだけあの部分を読みたい。せっかくいいところだったのに。アレ、この本って実は面白いんじゃね?みたいな。人間、本を読むにはあまりにもイレギュラーな状況に置かれて、その上さらにごく僅かな時間しか与えられなかったならば、結構必死になって面白い部分を探そうとすると思う。

 

本を持つ手と文字を追う目と内容を理解する頭はいつまでも大事にしよう

もしかすると、死ぬ10分前はいちばん本が面白い時間かもしれない。自分はあと10分で死ぬ。こんな状況は後にも先にもやってこない、到底読書向きとは思えない状況である。それになんといっても、持ち時間はたった10分しかない。そこでどんなにつまらない本を与えられようとも、死に物狂いで面白い部分を探すだろう。最期に読んだ本がつまらなかったなんて死んでも死にきれないじゃない。「みんなはつまらないって言うけど自分的にはまあまあだったよ」って、「たまたま開いたページのこの辺りに書いてあるところとかわりと好きだったよ」って、そんな感想を呑気に呟きながら死にたいじゃない。余命残り10分ともなれば、死ぬ気で面白い部分を探し当てなきゃ精神が死ぬんですよ。まあ探し当てなくても肉体が死ぬけど。ハハハ。

 

 

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