珈琲三杯|思索のための思索

限界フリーターが毎日の思索を書き綴る。手帖の代わり、或いはゴミ箱。

精神の貴族についての覚書|精神を裕福にしようと試みて泥沼に陥っている人間の戯言

精神の貴族始めました

というのは、ヴォルテールは、彼にならって書いたすべての連中と違って、なによりもまず精神の貴族であり、わたしもまさしくそれにほかならないからである。

ニーチェ『この人を見よ』

精神の貴族。いい言葉だ。肉体的に、物理的に貧しいことはさしたる問題ではない。精神が貧しいことこそが問題なのである。今生ではどう頑張っても肉体の貴族にはなれそうにないので、精神の貴族を目指そうと思う。裕福な精神の持ち主たれ。精神の貴族たるもの、どんな時でも余裕を持って優雅たれ。ところで裕福な精神って何だろう。自分で自分は今まさに精神の貴族なのだと思えたなら、その時点でもう精神の貴族である。ここでニーチェが言っている「精神の貴族」と私が字面から勝手に想像している「精神の貴族」は恐らく全くの別物だが、とりあえず私はこれから精神の貴族を目指そうと思う。さて、精神の貴族たり得るには一体何が必要だろうか。頭の中に思いついたことを適当にタイピングしていこう。

楽天カードEdyが付いてることを最近知った貴族

1つ目は「不動の心」である。これは武術家が山篭りの末に手に入れた岩メンタルとかそういうアレではない。高い位置に根を張って転がり落ちない心、もっと正確に言えば転がり落ちる不安を知らぬ心である。私は転がり落ちる不安を知らない。だって精神の貴族だから。外野からストレスの塊をぶつけられたとて、それをストレスと認識しない。認識できない。認識できないからストレスの塊は私の体を通り抜けていく。塊がぶつかることもなく、故にぶつかった衝撃で私が転がり落ちることもない。ストレスに弱い大抵の人は、転がり落ちるほどの衝撃によって転がり落ちる前に、転がり落ちるかもしれないという不安によって自ら勝手に転がり落ちるのである。しかしここで私は精神の貴族なので、転がり落ちる不安を知らない。貴族はコンビニでカードをかざしながら「あっEdyの残高足りるかな……」などといちいち不安に思わない。だって貴族なのだから、Edyの残高は無限に入っている。残高不足で間抜けなエラー音が響く心配などこれっぽっちもする必要がないのだ!流石貴族だぜ。ちなみに現実のEdyのチャージ上限は5万円。

労働中の怒り憎しみがその日中ずっと頭から離れない貴族

2つ目は「哀れみの心」である。この哀れみを慈しみと混同してはいけない。マザー・テレサの如き「慈しみの心」ではなく、あくまで貴族的な「哀れみの心」である。だって私は精神の慈母ではなく貴族であらねばならぬのだから。慈しみと兄弟であるように見えて実は全く赤の他人であるところの哀れみである。別に私はリアル貴族のやんごとなき一族方が慈しみの備わらない哀れみの心しか持ち合わせていないなどとはわりと思っている 少し思っている そんなに思ってない全く思っていないが、貴族的な哀れみ――「まあお気の毒……」、冷たさを伴わぬ冷ややかさという不思議な感情、生ぬるい金属の表面のようなツルリとした哀れみを、持たねばならぬのだ。平民諸君、哀れな子羊たち。私はいつでも諸君へ哀れみの眼差しを向ける準備は出来ている。我々に余計なストレス試練を与えるために神が天より面白半分で放り投げた遣わし給うたクソ客子羊たちを、私は哀れみの眼差しで迎えよう。私は横暴な羊飼いではなく貴族なのだから、子羊に向かって唾を吐きかけたりはしない。ただ目を伏せて静かに一言呟くだけだ。「まあお気の毒……」

このゴミ袋クソ重たいですわとか言わない貴族

3つ目は「お嬢様の心」である。貴族は貴族でも私はお嬢様である。お嬢様なので当然カワイイし、我儘も許してもらえるし、大抵のことは自分の望むままになるし、箸より重いものは持ったことがない……箸より重い感情も持ち上げられない。不愉快な感情は非常に重たいので、お嬢様には持ち上げることが出来ないのである。だから即座に捨てる。不愉快な感情はパッとその場に落として、それでおしまい。持ち上がらないものを持ち上げようとしなくていいし、ましてやゴミ箱にわざわざ捨てに行かなくてもいい。お嬢様は自らゴミを抱えてえっちらおっちら歩くことなんてしない。あとは紅茶とケーキが勝手に運ばれてくるのを澄ました顔で待っていればいい。足元に積み上がった排泄物同様の感情のことも気にしなくていい。そのためにハイヒールが生まれたのだから。

要領のいい平民に嫉妬して中指を立てる貴族

というわけで以上が行き当たりばったり思いつきのとんちんかんで考えた精神の貴族になるための方法。最後の方は完全に飽きてしまっているのがよくお分かり頂けるかと思う。ところで世の中には驚くべきことに、上記の精神の貴族になるための方法を、家庭教師もつけず、訓練も積まず、平民のままで、貴族並に、いや貴族以上にうまくやっている人間が大勢いるらしい。はーやってらんねえや。違うな。やってらんねえですわ。

 

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