珈琲三杯|思索のための思索

限界フリーターが毎日の思索を書き綴る。手帖の代わり、或いはゴミ箱。

やり過ぎ人間のやり過ぎについての覚書|ギャルは政治家より強し

人間、何でもかんでもやり過ぎたがり過ぎ問題

「過ぎたるは及ばざるがごとし」という有難い言葉がある。一見いくらやり過ぎても損することはないように思える物事にだって、大抵は限度はある。ためになる本ならいくらだって読んでもいい気がするが、寝食を疎かにし健康を害するほど読書に耽ってはならない。千切りキャベツならいくらだって食べてもいい気がするが、腹を壊すほど食ってはならない。「やり過ぎ」は良くない。そりゃそうだ。適当な範囲内から逸脱しているからわざわざ「過ぎ」という語尾が付与されるのであって、「どの程度までならやり過ぎてもいいか」という疑問は、「どの程度の悪事なら警察にしょっぴかれないか」と尋ねて回るくらい滑稽である。どうしても何かをし過ぎたいのなら、適当な範囲を引き伸ばして自身を正当化しなければならない。それで適当な範囲の引き伸ばしに成功し、「やり過ぎ」が適当の範疇になれば、めでたしめでたし……ではなく、新たな「やり過ぎ」に挑む者が誕生するだけである。やり過ぎを、やりたがり過ぎる。二重のやり過ぎである。

その理由とは(笑)

何故急にこんなことを言い始めたのかというと、「実は●●のやり過ぎは良くないんです!その理由とは!?」みたいな記事があまりにも多い……多過ぎると感じたからだ。やり過ぎが良くない理由、それはやり過ぎているからである。それ以上でも以下でもない。これでは私のような揚げ足取り野郎から恰好の餌食にされてしまう。というかもうしている。しかしこれだけ「やり過ぎはよくない」というよくよく考えれば当たり前なことを懸命に説く記事が増えたのは、それだけ我々の「やり過ぎ観」が麻痺していると捉えられなくもない。どこからが自分にとってのやり過ぎか自分で判断出来ないし、またやり過ぎている自分にも気づかないのである。他人の言葉で「ここまでは適当、ここからはやり過ぎ」とはっきり定義して貰わなければ、自分の中の適当ラインとやり過ぎラインを決めることすらままならない。本来自分の頭で判断し、心で感じ取り、体の訴えを聞くべきところのやり過ぎラインを。何をするにしても逐一他人の言葉を検索して、「ああ良かった、自分はやり過ぎてないんだ」と安心したり、「どうやらやり過ぎているらしい、気を付けよう」「むしろ自分はもっとやるべきなのでは」と焦ったりする。目を通した記事にそれらしく書いてあることは当然その書き手の中の基準であって、本来書き手によって千差万別になるところだが、世の中のライフハック記事は大抵コピペも同然なので、書き手が違おうとも基準が似たり寄ったりでそう困惑することもないのは有難い限りである。これは皮肉です。

無理な上昇志向と劣等感は体に毒

人間、「適当」や「平均」の範疇でじっとしていることが我慢ならない生き物だ。調子が良い時であればあるほど。「この範囲にいれば大丈夫」だったはずが、次第に「最低ライン」となり、やがて「脱するべき」と考えるようになる。ここまでであれば、何ら変哲のない人間の成長構図である。しかし人間には個人差があるので、ある事に関して「自分の中で10までが適当だがそれ以上はやり過ぎ」な人もいれば、「50になってやっとやり過ぎが見えてくる」人もいる。適当とやり過ぎの境界は、人によってあまりにも違うのである。そして現代人は何かにつけてインターネットで他人の動向を眺める。自分にとってはやり過ぎの範疇に当たることを、平気でこなしている人ばかりに見えてくる。自分よりすごい人ばっかりだ。ああどうしよう。自分ももっとやった方がいいのかな。どこからどこまでやればいいのか分からないや。SNS世界は基本的に、自分の中の平均以上のことを切り取る場であることをお忘れなきよう。

やり過ぎ傾向を抑止しようとすると今度はやり過ぎを悪として強制排除にかかる人間が生まれるのがまた厄介なところ

悪事などの例外を除いて、自分で適当だと判断したらそれが適当、やり過ぎだと感じたらそれがやり過ぎ。本来こうあるべきシステムに対して、「怠慢」とか「身勝手」とか「放縦」とかいう名前を付けた奴は一体誰だ。やり過ぎこそ美徳であると最初に言った奴は誰だ。やり過ぎをやり過ぎと判断出来なくなった人間を増やした奴は一体誰だ。安地で身を休めることは恥ではない。「これは私にとっては少し無理があります」と認めることは恥ではない。やり過ぎないことこそがカッコイイ世の中になってほしい。もちろん、やり過ぎたとしても責められることがない世の中に。インフルエンサーになってそんなことを訴えられたらいいのだけれど。世の中を動かせるのは政治家ではなくカリスマギャルだ。来世はカリスマギャルになろう。

 

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