持たざる者の自己啓発についての覚書|啓発する自己が無い!
一時期自己啓発に傾倒して身を滅ぼした人間の感想です
自己啓発は、啓発する価値のある自己を持つ者のみに許された特権的営みである。自分磨きは、磨けば光ることが確約されている自己を持つ者のみに許された特権的娯楽である。美容研究家が美人ばかりなのが良い例だろう。何故美容研究家は美人ばかりなのか。それは彼女らの肉体に美容という労力をかける価値が十分にあるからである。手入れをすれば尚一層美しくなれるという保証が彼女らの肉体に備わっていて、かつそれを自覚しているからである。つまり、プラスからのスタートということだ。自己啓発に余念のない商社マンも、自分磨きに明け暮れるOLも、みな大抵「持てる者」である。持てる者の自己研鑽とそうでない(かもしれない)者の自己研鑽は、間違いなく宝が埋まっている場所を掘ることとそこらへんを当てずっぽうに掘り散らかすことくらい違う。運が良ければ適当に掘っていても当たるものだが、当たるのは運が良ければの話。それを承知で諦めずに掘り続けられる者だけが、宝を掘り当てることが出来るのである。財宝探知機とショベルカーを持った相手と同じフィールドに立ち、彼らを横目にスコップひとつで発掘作業を続けられるメンタルのある者だけが。
限りなく低い位置から始める自己啓発
自己啓発をするためには啓発するに値する自己、言い換えれば自己啓発活動によって達成感を得られる自己をあらかじめ用意しておく必要がある、というのが私の持論である。温泉を掘り当てようと思って延々自宅の庭ばかり掘っていてもどうにもならない。まずは温泉が出るかもしれない場所を探すところから始めなければならない。啓発するに値する自己を手に入れるために、平均未満の我々はまず何を始めれば良いのだろう。以下、平均以上の人が自己啓発するための実用的な方法ではなく、私のような平均未満の 人間が自己啓発というスタートラインに立つために悪あがきするクソみたいなライフハックである。
①インテリアを整える
これは必須だと思う。整理整頓とか掃除は言うまでもなく、とにかく部屋を美しくする。自分の好みに従ってコンセプトある部屋を作る。今時デカい100均をハシゴすれば「それっぽいもの」は大抵揃う。また懲りずに形から入りやがってと揶揄されようが、形にも入れないより何倍もマシだ。何故インテリアを整える必要があるかというと、「お洒落な部屋で暮らしている人」というバッジが手に入るからだ。啓発に値する自己というものは自己から見て価値のある自己だが、そうなると自然他人目線でもある程度の価値を認められるようになる。自己満足と他者からの承認をミックスしながら育てていくのが啓発に値する自己である。技術も専門知識も不要で、小難しいことは避け、なるだけ手っ取り早く、なるだけ沢山の承認を得るためには、そう……「お洒落な部屋で暮らしている人」になるのが一番いいと思う。「お洒落な部屋で暮らしている人」になって、ブログやSNSに部屋の写真をアップして、自己満足と他者からの承認をモリモリ得よう。実生活で3食カップラーメンを食ってようが牛乳石鹸で全身を洗ってようがそんなことはどうでもいい!「お洒落な部屋で暮らしている人」になろう!
②マクドナルドのカウンター席で考え事をする
持てる者御用達の店といえばスターバックスやドトールコーヒーを筆頭とするオシャレな喫茶店だが、我々は持たざる者なのでマクドナルドに行こう。なるべくカウンター席、目の前が壁か外の風景で、ほかの客があまり視界に入らない落ち着いた場所を選ぶ。そしておもむろに鞄から文庫本を取り出して手元に置き、特に読まずに考え事をする。そうして「なんとなくマックに来て文庫本とコーヒー片手にぼんやりしている自分」を感じる。これは私だけなら恐縮なのだが、マックや喫茶店やネカフェでぼんやりしている時の「謎のモチベーションがじわじわ上がっていく感」がたまらなく好きなのだ。なんか……今ならなんか出来そうな気がする。小難しい本を読んだり、英語の勉強を始めたり、小説を書いてみたり、なんか、なんかに着手出来そうな……そんな気がする。自宅に帰るとそんな気もスンと無くなって普段通りぐうたらすることが殆どなのだが、アレは一体何なのだろうね。他人の目がある環境に身を置くことが原因なのだろうか。今ならスタバで勉強勢の気持ちも分からんでもない。他人の目がある環境でアンニュイな自分を演出する。「あれ、今の自分ちょっとカッコイイかも……マックだけど」と思えたら最高である。マックだけど。
③人生のメインクエストを進める
自分でも一体何を言っているんだか分からないのだが、自宅でくつろいでいる時の自分、ストレスを感じていない状態の自分、好きなことをしている自分こそが本来の自分であって、本来の人生であり、楽な状態にあるこっちが人生のメインクエストで、辛い労働をしている自分は面倒なおつかいクエスト中くらいに考えるよう努めること。今私は面倒なおつかいクエストを終えて楽しくブログを書いているわけだが、今この時間こそが人生のメインクエスト。今この時間こそが本来の私の人生。そういう暗示をかける。のんびり心と体を落ち着けている時間。何かを楽しんでいる時間。30分でも1時間でもいい。そういう時間こそ育てるべきである。まず我々は我々の人生が育てるに値する時間であることを実感する練習をしなければならない。おつかいクエストばかり受注していつまで経ってもメインクエストが進まない人間になってはならない。労働を育てるな!余暇を育てろ!
④市販の自己啓発本を読まない
市販の自己啓発本に書いてある内容は、基本的に持てる者向けである。持たざる者向けのように書いてある本でも、「いやいやそれが出来ないから持たざる者なんだってば」と野次を飛ばしたくなるようなものが多く、総じてハードルが高い。持てる者にとってはちょっと頑張れば手が届くような領域であっても、持たざる者にとっては雲の上の領域。「まず初めに身の回りの物を全てルイ・ヴィトンにします」とか「下準備として1000万円を手元に用意します」と言われても困るのだ。あれらは何かをやる能力(素質)があることを前提にそのやり方を解説する書物なのである。やる能力の無い人間には意味がないどころか自信を失くしたりして逆効果になる場合もある。電話帳でも読んでた方がまだマシだ。市販の自己啓発本を捨てろ!電話帳を読め!
⑤この記事の内容を鵜呑みにしない
これが1番大事。