珈琲三杯|思索のための思索

限界フリーターが毎日の思索を書き綴る。手帖の代わり、或いはゴミ箱。

しゃけおにぎりが世界を滅ぼす覚書|これにはさしもの遊城十代も困惑

「それは多いですか?」「はい、それは多いです」

いやぁね、決して相手のことを信用していないわけじゃないんだけど、一度は自分の目で確認しなきゃ気がすまないタチなんだ。信用していないわけじゃないんだけど。例えば相手がそれを「多い」と言ったのなら実際多いんだろうし、「少ない」と言ったのなら実際少ないのだろう。けれども相手の言う「多い」がどのくらい多くて、「少ない」がどのくらい少ないのかは、私には判別することができない。私が知りたいのは、「多い」「少ない」ではなく「どのくらい多い」「どのくらい少ない」かであり、もっと言えば「私の中でどのくらい多い」「私の中でどのくらい少ない」なのだ。なんて我儘なやつ。それを相手に要求することはあまりにも酷であるし、無茶というものだろう。ならば最初から相手に具体的な数字、誰にとっても絶対的な数字を報告させればよいのか?例えば「在庫はまだいっぱいありましたよ」ではなく、「在庫はまだ20ありましたよ」と報告させればよいのか?たまにであればそれもよいだろう。だが、毎回毎回、いつもいつも、どこでもかしこでもそうさせるわけにはいかないだろう。世の中、「俺が多いって言ってんだから多いんだよ、いいから黙って頷いてろ」という漢気溢れる人間ばかりではない。

 

オンリーワンでもある

 「多い」とか「少ない」というのは、難しいものだな。3は2よりも多いが、1は2よりも少ない。2という基準を置いた場合にのみ「3は多い」「1は少ない」と言えるのであって、何の基準もなしに「3は多い」「1は少ない」とは言えないわけで。いくら2と照らし合わせて3が多かろうと、100の前ではその多さなんて吹き飛んでしまうのだから。また、3の多さをいとも容易く吹き飛ばした100であっても、10000000000の前にあっては小指の先程度の多さしかなく、その10000000000さえも∞の前にあっては何の多さも、いやそれどころか何の価値も持たないであろう。やっぱり∞がナンバーワン。

 

クソデカ在庫報告

 「∞と比較すれば全ては少ないので、この世のものは全て少ないです、よって在庫も少ないです」という報告をしてくるような人間がいたら、私はとりあえず彼ないし彼女を休憩室に連れて行き、甘いココアを飲ませて、何か最近嫌なことがなかったか尋ねるであろう。彼ないし彼女にとっての基準は「彼(彼女)にとって」ではなく、あくまで「∞」にあるのだ。スケールがデカすぎる。「∞」ではあまりに無味乾燥というのなら、「宇宙」としてもよい。宇宙なんて、我々人間にとっては実質∞みたいなものだから。基準を∞ないし宇宙に置くことで、全てがちっぽけに見える。3は少ない、在庫も少ない、財布の中身も少ない、貯金も少ない、会社の売上も少ない、国家予算も少ない、何もかも少ない。最初から多いか少ないかなんて考えなくて済むという点では合理的だ。なんせ、全てが少ないのだから。

 

∞の前では何もかも無意味にして無価値

現在の在庫は10である、それならば10くらい注文しておこうか。しかし10注文して20になったとて、∞に照らし合わせてしまえば結局少ないのだから、いくら在庫を追加しようがさして意味のない行為である。よって、その場面で10注文しようが100注文しよう1000注文してツイッターに誤発注しました助けてくださいと書き込もうが、何ひとつ問題にならないだろう。10も20も110も1010も結局少ないのだから。∞を基準にしてしまえば、人間の営みの全てが無意味になり、人間の活動は全て停止するだろう。

 

0にもいろいろあってね

唯一、∞に一矢報いることができそうな存在がある。それは0である。在庫が10だろうと20だろうと110だろうと1010だろうと変わりはないが、0となると少しばかり話が変わってくる。在庫が0になると、人間の活動は強制的に停止させられる。例えばマクドナルドでバンズの在庫が0になったら、ハンバーガーを売るという活動は強制的に停止させられるのである。パティをパティとパティで挟んで強引に売るとかするならまた別の話だが。まだ在庫がある状態でゆるやかに停止するのと、在庫が0になった状態で強制的に停止させられるのとでは、大きく違う。おや在庫が0になってしまった、しかしいくら注文しようとも∞の前では0に等しいのだから無意味だ、されどもそれは決して0ではない。0に等しいことが0ではないことに気づいた人間だけが、そこから再起動できるのである。

 

シャケ召喚

売店には基準在庫とかそれに準ずるものというものがあって、システム上で在庫が基準在庫数を切ったら自動で発注してくれる仕組みがある。仮にとある1軒のコンビニのしゃけおにぎりの基準在庫が∞で登録されており、それは予算上何の問題もなく、かつその要求は受け入れられ、遂行に向かって各所が動いたとしよう。世の中えらいこっちゃである。まず、しゃけおにぎりは永久に納品され続ける。1日何度納品可能なのかは知らないが、とにかく、しゃけおにぎりが納品できる限りはバンバン届く。そのうち店はしゃけおにぎりに圧迫されて物理的に潰れるであろうが、店のメインコンピュータを金庫に入れるなりケーブルに強靭なカバーを付けるなりして保護しておけば何の問題もなくしゃけおにぎりの納品が可能である。店舗を潰したしゃけおにぎりはやがて周辺地域を巻き込み、コンビニと陸続きの場所は全てしゃけおにぎりで埋め尽くされる。その店舗にしゃけおにぎりを納品するために、生産も輸送もフル稼働する。原料である米や鮭や海苔や塩を確保するために、農家や漁師は24時間働かせられ、そのうち田んぼは枯れ果て、鮭や海苔は絶滅し、海は干上がる。米を入手できなくなった自国民による暴動が起こる。自国の田が枯れることによる穀物輸入の急増やら鮭や海苔が絶滅したことによる外国からの非難やらで国際問題となり、戦争が勃発する。しゃけおにぎりが、世界を滅ぼすのである。

 

 

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