大人と大人の延々続く薄々察し合いについての覚書|人が薄々察しているときの「薄々」って具体的にどのくらいの厚みがあるんですかね
すごーい!(無意識)
今日、無意識のうちに人を褒めていてびっくりした。自分で自分にびっくりした。「ここは褒めるポイントだ!褒めよう!」と考えたわけではなく、あたかも相手が興味がない話をしている最中に今日の晩飯のことを考えながら適当な相槌を打つような具合で「へえすごーい!頼もしいですね!」と言っていた。完全に発言し終えてから自分の発言内容を遅れて把握してそれでびっくりした。私は褒めて伸ばす派なので普段からわりと人を褒めまくる方だと思うのだが、「へえすごーい!」はまだしも無意識で「頼もしいですね!」は出てこないじゃろ。私は息を吸うように人を褒めるんだな。下手すると息を吸うより簡単かもしれないな。
同じ「1ミリも思ってない」にも正真正銘の0ミリから驚きの100メートルまでとんでもない誤差があるんだよなあ
息を吸うようにと言ったが、決して普段から心にもない褒め言葉を口からダバダバ垂れ流しているわけではないのだ。ちゃんと心にはある。少なくとも意識されている心の部分にはしっかりある。あると思う。だとすれば、意識されていない心の部分になにか別のものがあるのだろうか。「とりあえず褒めときゃなんとかなるやろwww」みたいななにかが。より具体的に言えばほら、よほど屈折した人でもない限り褒められて嬉しくない人はいないだろうし、適当に褒めて事が穏便に運ぶならいくらでも褒めておけばいいじゃないか、減るもんでもなし、みたいな。しかし少なくとも私が意識して言葉を選びながら褒めているときはそんなこと1ミリも思ってないぞ。本当だ。本当か?そんなこと 1ミリも思ってないのなら、どうして今ここでそんなこと をつらつらと書き並べることができるんだ。お前は随分と そんなこと に詳しいように思われるね。それはまるで、「私はりんごなんていう赤くて丸くて甘くてやや酸味があってカリウムや食物繊維を豊富に含み2020年度は県別生産量1位の青森県に463,000トン生産された果物のことなんか1ミリも知りませんよ!」って言っている人みたいだな。
う す う す
一体どこからどこまでが私の「すごーい!」なんだろう。どこからどこまでが本物の「すごーい!」で、どこからどこまでが偽物の「すごーい!」なんだろう。その線引きはなかなか難しい。しかし自分でも分かりゃしないもの、他人になんてもっと分かりゃしないでしょ。目の前の相手が今発した「すごーい!」はもしかすると偽物の「すごーい!」なのかもしれない、けれどもそれを疑ったところでどうしようもないのだから、こちらは相手の社交辞令に騙されたふりして喜んであげるというのが大人の対応なのだ。それで、発した側も相手が騙されたふりをしてくれているのを 薄々察しつつも その点に関してはなにも言わない。さらに言われた側は発した側が薄々察しつつもその点に関してなにも言わないようにしていることを薄々察しつつもなにも言わない。大人と大人の延々続く薄々察し合い。まあこれ以上なにかを追求するのは野暮というものか。
ペットの犬や猫は飼い主の様子を見てなにかをはっきり察したような顔をすることがあるけれど人間もあれくらい素直になれればいいのに
人はこうして段々本心と建前の区別がつかなくなって、本心を言うべき相手に建前を使ったり、建前を使うべき相手に本心を言ったりして、段々自身の発言が分からなくなってくる。また言われた側も言われた側で、相手の本心を建前と見做したり、建前を本心と見做したり、以前なら見抜けていたはずの相手の言葉の性質が分からなくなって、もはや薄々察することができなくなる。薄々察するというのは人間独自の才能だと勝手に思っているのだが、どうなんだろう。動物も相手のことを薄々察したりすることがあるのかな。察するのではなく。
本音で殴ろう
「我々はどこまで本心で振る舞うべきか」ということにいちいち配慮しながら生活しなきゃいけないのは人間に背負わされたハンデだな。そこの配慮が上手い人間もいれば下手くそな人間もいる。そこに関して全人類みんながみんなまったく同じだけの才能を持っていたならば、みんながみんないつも同じ質と量で本心と建前を並べることになって、とても分かりやすいだろうになあ。並べる意味はなくなるけれど。みんながみんな、いつも「ああ、彼は今私を褒めてくれたが、本当はそんなこと1ミリも思っちゃいないに違いない、なぜそうと断定できるかって、かくいう私の方もそういう才能を彼とまったく同じだけ持っているからだ、昨日は私も彼とまったく同じことを別の友人に向かってやったのだ」なーんてことになり、もはや建前は全人類共通の解説不要なものになる。息の吸い方に解説が必要ないのと同じくらい。それならばもう建前は要らない。全人類の共通項は省略したって構わないだろう。そこから本当の殴り合いが始まる。右の本音を殴られたら、左の本音も差し出すフリしてグーで殴ろう。