珈琲三杯|思索のための思索

限界フリーターが毎日の思索を書き綴る。手帖の代わり、或いはゴミ箱。

「すごい」がすごい覚書|最終兵器すごい

すごい

ブログのネタを書き溜めておくメモ帳アプリにこんな一文があった。「褒めるところがあるものが褒められるのではなくして褒めるために必要な言葉があるもよ(原文ママ)が褒められるのだ」。ンッン~迷言だなこれは。あーあー、つまり、物があるから名があるのか、名があるから物があるのか、っていうアレみたいなもので、この場合は後者に近いなにかだと言いたいんだろう。「きれい」なものは「きれい」という言葉があるから「きれい」なもの足り得るのであって、この世に「きれい」という言葉がなかったら「きれい」なものでもなんでもないただの「それ」に過ぎない的なことが言いたいんだろう。このメモを残した時の私は。そう考えると、「すごい」という言葉に救われた「それ」は数知れないだろうな。だって、褒むべき部分を僅かでも持つ物事は概ね「すごい」という言葉で包み込めるじゃない。「きれい」も「すごい」、「つよい」も「すごい」、「でかい」も「すごい」。「ほんのちょっとだけきれい」も「すごい」し、「クッソきれい」も「すごい」。そんなわけで(?)、「すごい」とは、たとえ私の如き褒める部分が見当たらないような人間でも、かろうじてそれに値するかもしれない部分をとりあえずこれで包んでおけばなんとかなるような、魔法のおくるみなのである。すごい。

 

すごーい

この世に最終兵器というものがあるならば、「すごい」という言葉もまた、それに含めてよいだろう。「すごい」ひとつで、あんなものからこんなものまで全てカバーできるのだ。生命が誕生するその瞬間から、生命が息絶えるその瞬間まで。命が生まれ出る瞬間。すごい。命が全うされた瞬間。すごい。生まれたときはまだしもなにかが死んで「すごい」はおかしいと思われるかもしれない。けれども今まで生きていたものが、時間の一点を挟んでもう生きていないものになるのだから、それはそれで誕生に負けず劣らずすごいと思う。大自然ドキュメンタリーで、ライオンに捕食されて息絶えるガゼルの映像を見て、「すごい」と息を呑むとき、ガゼルに食らいつくライオンよりむしろ、ピクピクと痙攣しながら生々しい肉を晒すガゼルの方に目が行くことはないだろうか。私はそういう映像においては、大抵死にゆく方を見ていた。肉食ってる生き物なんてそのへんのレストランに行けばごまんと見られるのだ。しかし肉として食われている生き物なんてそうそうお目にかかれない。すごい。

 

すごい!!!!!!!!!!

人間の国にやってきて驚いたこと。「すごい」ひとつで、こんなに軽々しくなにかを救えてしまうのか。それは素晴らしいことであって、同時に恐ろしいことである。世の中探せば、「すごい」ひとつに救われた人間が大勢いたことだろう。きっと。たぶん。また、世の中探せば、「すごい」ひとつに救われてしまったせいで、この世を手放すきっかけを失った人間が大勢いたことだろう。きっと。たぶん。それがいいことであると、今の私には断言することができない。あのときこの世を手放しておけばよかったのにと、あのときこそが自分にとって最後のチャンスだったのにと、かつて自分に贈られた「すごい」ひとつを一生恨み続ける人間もいるかもしれない。

 

すごい😂🙏🙏

ライオンに喉笛を噛み切られ今まさに事切れんとしているガゼルに「すごい」という言葉をいくら送ったとて、ガゼルは死ぬだろう。また人間も、そうやって物理的に噛み殺されるような場面なんてそうそうないとはいえ、病気や怪我や寿命で今まさに事切れんとしているときにどれだけ枕元で「すごい」と言われても、死ぬときゃ死ぬだろう。けど人間ってときどき、それと似たような状況から生き延びちゃったりするんですよね。「すごい」ひとつで。命からがら抜け出して、なんかこう、スイミーみたいに、 同胞はらから 100人従えて、1匹のライオンに逆襲しちゃったりすることが、よくあるとは言わないけど、稀によくあるんですよね。そういう逆転劇ができるのは、人間くらいだと思ってますが、ほかの生き物のみなさんどうでしょうか。

 

すごい?

やや脱線したが、「すごい」の懐は深いという話であった。「すごい」というおくるみで包まれる余地が残されているものは幸いである。すごいかもしれないからである。未だなんの名も持たぬただの「それ」に対し、「すごい」という言葉を使用して差し支えないと判断した者が地球上に1人でもいるということそれ自体が、幸いである。すごいかもしれないからである。ところでこの論でいくと、全ての「それ」は他から認められて初めて価値のあるなにかに昇格するのだ、ということを承認せねばならぬのだが、まあそれでいいんじゃないですか。人だって、「それ」のままじゃ生きられないでしょう。

 

要するに褒めるのはタダ!

いっぱい褒めよう!

 

 

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