はたらくくるまとはたらくみんなについての覚書｜はたらく大人がみんなロボットに見えるのは労働が人をロボットにするからよ

片手は万能

バスをよく利用する人なら知ってるかもしれないが、バスの運転手さんは、他のバスとすれ違う時に、対向バスの運転手さんに向かって片手を上げる。片手を上げるってのは、えーと、片手を上げるということです。その手の形を例えるなら、普段よく人を気絶させるときに使う手刀、あの由緒正しき片手である。あるいはまた、「すみませんちょっと通してください！！！」と言いながら人ごみをかき分けるときに用いる、あの由緒正しき片手である。で、それを顔の斜め前くらいに持ってきて、ピッ！とやる。なんだか段落が長くなりそうなのでここで分けます。ピッ！

これだから運転席の後ろに座るのはやめられねえんだ

続き。私はあの運転手さん同士の挨拶が好きで、他のバスとすれ違う時はよく両方の運転席を眺めているのだが、今日乗ったバスの運転手さんはというと、無邪気に手を振っていた。無邪気に手を振っていたってのは、えーと、無邪気に手を振っていたということです。ばいばーい、みたいな感じで。で、思わず対向バスの運転手さんを見ると、苦笑いしながらピッ！と片手を上げている。そしてこちらの運転手さんはというと、先程まで無邪気に手を振っていたくせして、澄ました声で「次は●●ー、●●ー、お降りのお客様いらっしゃいませんか」なんてアナウンスしているからこれがまた可笑しい。あんたさっきまで無邪気に手振ってたのになんだその切り替え。やがてまた向かいからバスが来る。すれ違いざま、無邪気に手を振る。向こうの運転手さんは小さく笑いながらピッ！と片手を上げる。それが、よかった。

ピカチュウのいる職場いいなあ

あと、運転席にピカチュウのステッカーが貼ってあったのもよかった。ピカチュウのステッカーといっても、ポケモンパンの本体おまけシールのようなアレではなくて、おそらく運転手向けの警告用ステッカーだ。文字があったし。内容まではよく見えなかったが、たぶんなんか、そういうやつだ。一度剥がれかけたのか、ご丁寧に四辺をテープで固定してあって、そこまでして貼っとかなきゃいけないってことは、やっぱり運転時に注意を促すようななにかなんだろう。良くも悪くも気難しげな声色でアナウンスするベテランのおじさんたちが毎日毎日ピカチュウのステッカーを視界に入れながら運転しているんだと考えると、これもなかなかによい。

スタバのブランド力を改めて感じる

私がいつも利用する経路のバス、ときどき運転席の横にスタバの紙袋がぶら下げてある。自由の女神みたいなのがどーん！ってついてるやつ。あのスタバの紙袋が運転手さんの私物なのか、それともそのバスに常時置いてあるものなのかは分からない。いつも見るわけではない。でも週1くらいでその車体に出くわす。スタバの紙袋、色合いこそ控えめなのだが、とにかく目立つ。なんといってもスタバだし。スタバの紙袋って、ただの紙袋なのになんかオシャレじゃないですか。前側の席に座ったときや、降りるときに、「おや、スタバの……」ってなる。最近では流石に慣れたが、機械だらけで無機質な運転席に、スタバの紙袋がぶら下がっているのは、とてもいいと思う。

ここだけの話なんですけど、人間社会で働いている人たちって、実はみんな感情というものを持っているらしいですよ

労働している他人の姿って、変な言い方をすると、いつも完璧に見えるんですよ。隙がないっていうか。特にバスの運転手さんみたいな、朝の出勤風景さえいまひとつ想像できないような仕事だと、特に。完成されたロボットみたいに見えるの。ホテルの人とかデパートの販売員さんがいつも完璧に見えるのはもちろん、パン屋のお姉さんとか、カフェのお兄さん、スーパーのおばさんや、警備員のおじさんに至るまで。彼らの中にだってきっと「仕事したくないなあ、早く帰りたいなあ、帰って酒飲んでゲームしたいなあ」と思っている人は大勢いるはずなのに、そんなことを顔に書いて働いてる人ってなかなか見ないじゃないですか。いやね、社会人として働いてるんだから当然だろうと言われればそれまでだけど、彼らが「はよ帰りたいです」オーラを客に向かって1ミリも発することなく、それでいて「はよ帰りたいです」と考えながら働いてるの、本当にすごいと思う。

はよ帰りたいらっしゃいませ～

私は労働中にずっと「はよ帰りたいです」とばかり考えているので、「はよ帰りたいです」という気持ちが労働中の表情やしぐさやオーラに漏れ出ていないかといつも心配になる。働いているときの私って、他人からどう見えているんだろう。もしかしたら私も、「あの店員さん、この時間は眠たいだろうに、そんな雰囲気を1ミリも出さず真面目に働いてるのエライなあ」と思われることがあったりするのかな？イヤーッ！そんなことないです！常に帰りたいです！帰りたい！こんなにも毎日帰りたいのに、その帰りたい気持ちが1ミリも客に伝わっていないとしたら、それはそれですごいんじゃないでしょうか。伝わっていたら伝わっていたで、困るんですけど。