珈琲三杯|思索のための思索

限界フリーターが毎日の思索を書き綴る。手帖の代わり、或いはゴミ箱。

バイト哀史についての覚書|ア・トラジック・ストーリー・オブ・ディスポーサブル・ワーカーズ

ゴールデンウィーク中に読んだ本

女工哀史

 

ナナミンの金と労働に対するスタンスはめちゃくちゃ共感できる

なぜ私はGWの読み物としてこの本をチョイスしたのだろう。特に理由はなかったと思う。ヘーゲルの『哲学入門』2回目を読み終わったから次はなに読もうかなーと考えて、ブックオフのセールで新しい本も手に入れたことだし前に買っていた積ん読本を消化しようと思って、次はこれでいいかーくらいの気持ちでなんとなく手に取って、読み始めて、ものの10分くらいでヴォエッ……ってなった。その日のつらい労働からやっとこさ解放されて家に帰りついたというのに、どうして私はまたつらい労働の本なんか読んでいるんだろう。もう1日中つらい労働まみれや。あまりにもつらい労働まみれになったので、LINEの背景画像を『呪術廻戦』における七海健人の名言「労働はクソということです」に変更した。

これですね

 

求人情報から7割の魅力を引いたものが現実

その実態はさておき、各方面の制度自体はおっかないくらいしっかり整備されてるなと思った。契約書類とか、給与関係とか、福利厚生一覧とか、新人教育計画とか、労災発生時の手当とか、そういう文面上のモロモロは極めて周到に細かーーーいところまで完備されてて、なーんにも知らない人が目を通したら「色々な制度がめっちゃ整ってるすげー会社やんけ!」ってなると思う。まあ腐っても大工場だなと。実態はさておきですよ?実態はさておきね。冷静に考えたら、「色々な制度がめっちゃ整ってる」って一文、あまりにもふわふわしているし。でも無知な労働者は「色々な制度がめっちゃ整ってる」って言うしかないんですよ。よくわかんねーから。なんかすげーってことしかわからない。なんかすげーってことならわかる。じゃあすげーんじゃん!これはホワイト企業やな!しかも、「色々な制度がめっちゃ整ってる」ことに人間はめっぽう弱いでしょう。「色々な制度がめっちゃ整ってる」というそれだけで、不思議と安心感を覚えてしまうでしょう。無知な人間を飼いならすには、なんかすげー感じのヴェールで覆われたアイマイな秩序がひとつあれば事足りるのだ。

 

「仕事内容が気に入っているから時給の安さはこの際気にしない」スタイルでバイトを始めても結局1年後には時給の安さばっかり気にしながら労働するハメになるぞ(2敗)

秩序というゆりかごの中で眠れるのであれば、多少作りが甘くたって、寝心地が悪くたって、シーツがカビ臭くったって、音がギシギシ鳴ったって、まあ、別に。極上のふかふかキングベッドを所望して駄々を捏ねた末に真冬の山中にうち捨てられるよりは、よっぽど。こういう人間がまだそれなりにいるという点だけを見れば、人間ちゃんはもうちょっと強欲になってもいいと思うね。その点だけを見ればね。でもここ10年くらいを見ると、少なくともアルバイトの時給に限ってだけど、ずいぶんよくなったなあと思う。私が大学生の頃と比較して、今のバイトは300円近く時給が高い。深夜手当を含めるとなんと500円近い値上げ(?)だ。労働力は商品なので値上げと表現しても差し支えないですよね。今年から時給が50円上がったのも、「これくらいじゃないと誰も応募してこないから」という理由で店長が頑張ってくれたからだ。ありがとう店長。ここ10年、私はなんにもしてないけど、世の誰かの頑張りによって時給は格段に上がった。今この瞬間もどこかで誰かが頑張ってるんだろうなあ。私はなんにもしてないけど。

 

100年後、200年後も人間が労働してる前提で考えるのちょっと辛いな

まず誰かの犠牲があって、次に誰かの頑張りがあって、環境が改善される。そこにはいつも「誰か」の存在がある。不特定多数の、名前すら知られていない、でも確かにそこにいたしそこにいる誰かがの存在がある。我々の代だって、いつかは犠牲とされなければならないときが来るだろうし、ひょっとしたら今がそうなのかもしれないし、将来「令和の人たちってこんな安い時給でバイトしてたんだ……今は高校生でも2000円は貰えるし交通費を出さないところは法律で罰せられるし半年も働いたらバイトにも何万かボーナスくれる会社がほとんどなのに……」って思われる時代が来るのかもしれないし、でもそれが人間社会の歩みってことなんだろうし、将来そうなったとしても我々が将来の人々を妬んだり憎んだりする理由にはならないし、決して妬んだり憎んだりしてはいけないのだ。100年後、200年後の労働者は、我々よりずっと恵まれた労働環境の中、我々よりずっと恵まれた給料で働いていなければならない!100年後、200年後の労働者に幸あれ!